[]おかあさん

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どの子も、お母さんのことになると、真剣に作文を書く。



どの子も、自分のお母さんはとくべつに、いい、と思っている。





お母さんの誕生日に、なになにをしてあげた、というのを、子どもが日記に書いてくる。



すると、お母さんはとてもよろこんでくれた、と、たいていは書いてある。



兄弟が3人いて、いちばん上のお姉ちゃんは、〇〇を、



中のお兄ちゃんは、〇〇を、



わたしは〇〇をしてあげました、と書いてある。







詳細が記してあり、



上のお姉ちゃんのプレゼントについては、お母さんはこう言った。



中のお兄ちゃんのプレゼントについては、お母さんはこう言った。



わたしがあげたプレゼントについては、お母さんはこう言ってくれた、と書いてある。



子どもは、言葉の端々まで、ぜんぶ、そのままきっちりとよく、聞いているのです。









夕飯のあと、お母さんが片づけをしながら、口笛を吹いていたので、



「おかあさんが口笛を吹いてる」と言ったら、



「あんたたちのプレゼントがうれしかったからね」



と言っていました。


そんなことまで、ぜんぶ、覚えていて、日記に書いてくる。







「うちのお母さんって、こうなんだよ」



ということを、聞いてくれる人が要るのでしょう。



だから、手近な、先生に話すのでしょうなあ。









お母さんのやることなすこと、みんな、嬉しいのですナ。



おかあさんは、やはり、特別だなあ、と、



教師生活を続けているほどに、その思いは深くなっていくばかりです。



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[]成功することが良いことだ、と教えると・・・

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こういう思いがあると、



「失敗しないで!」



と、どうしても



声をかけたくなるだろう、と思うのです。



そうすると、失敗を、非常に恐れる子に育ちます。









また、



一度や二度、失敗したって、どうっていうことはない。



という考えも、あります。









図工で絵を描いていて、すぐに



「ああ、だめだ。失敗かも」



という子と、



「まあ、だいたい、できたなー」



という子。







教室にはさまざまな子がいて、



できた、できなかった、成功だ、失敗だ、



という結果を、ことさらに重視する子がいるかと思えば、



いろいろと試せて、面白かったわー、とだけ、考える子もいます。







性格なのでしょうかネ?



物の扱いでも、ずいぶん違っていて、



実に気軽に、友達に自分の学用品や道具を貸している子もいれば、



絶対に貸さないし、自分の持ち物は潔癖といえるくらいにきちんと管理する子もいます。







漢字テストが90点だったとき、周囲が気の毒になるくらいめげている子もいます。



90点なら、いいじゃない、と友達に言われても、



「いや、全然、ダメだよ、こんな点数じゃ」



と、しぼんだ声で、嘆いています。







かと思えば、お気楽な雰囲気で



「さて、オレは何点でしょう?」と友達にクイズして、「60点!」 「あたり〜」



なんてやっている子もいます。







こういう子どもが良い、というのではないのです。



貸すのが良いというのでもないし、貸さないのが良いのでもありません。



結果にこだわる方がよいとか悪いとか、そんなこともありません。







ただ、これはネ。



たぶん、親や先生に似たんだな、と思うんだよね。



子どもはどうしたって、周囲の人間から学ぶことが多いし、



ありとあらゆることを、影響を受け、選択してきたと思う。



だから、なおさら、子どものせいではないし、



良い悪いって話じゃあ、ないんだと思います。








大事なのは、おとなの頭の中。



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[]Sくんがいない日の・・・

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ちがう学年の先生。



いろいろとクラスの子が言うことを聞かないので、苦労していた。



ある日、とても快活な感じで職員室で過ごされている。



雰囲気が明るいので、いいことでもあったのかと、



あとできいたら、



「Sくんが、お休みだったので」



ということだった。









「あの子には、困る」



「あの子が難物だ」









そういう子が、クラスに数人いるのが、当り前だ、という感じがあるのかも。









ところがですな。



次の学年になったら、Sくんもそんなこともなく、



なかなか活躍することだってあるわけネ。



そういうパターン、結構、ある。



ちっとも、難物などでは、ないことも多いわけ。



これはどうしたって、教師が勝手に、



『難物化』



したってことになる。









勝手に難物化、という病が、教師にはあるわけで・・・。







Sくんが難物だったわけでなく、



先生の判断だったってこと。







「難物評価」をなくしましょう、というと、これは難しい。



「だって、難物だもん」と。



そうとしか、見えないのだから。



「見るな」と言っても、「そうとしか、見えない」のだ。



そのかわり、



「もっとあれこれ、よく見てみましょう」



というアプローチの方が、かんたんで、スッといける。







先生に、



「この子を、そんな目でみないでください」



というのは、苦しい。



「じゃあ、どう見ろというのか?」と、



わけが分からなくなる。



だから、



「もっと、よく見てみよう、さまざまな見方で・・・」



と語り掛けたほうが、効き目があるように思う。









見ない、というワザは、人間にとって、とても難しい。



癖がついているから。



その代わり、そのままを、見る、



きちんと見る、



という方が、



人間には習得しやすいのではないか、と思います。



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[]呑気な声で

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朝はできるだけ、呑気そうな声がでるように、訓練している。



授業中は、ハキハキ。

指示はわかりやすく。

遠くまで響く声で。明るく。



でも、朝の時間は、できるだけ呑気そうな声で。



朝。

まだ何もはじまっていない時間。始業まで、まだ15分もある、という時間。

教室に入ると、たいがいの子は遊びに行っていて、ほとんどいません。



数人が、のんびりしたムードの中で、ゆっくりと机の中に教科書をしまったり、

たわいない話をしたり、くつろいでいます。





そこに、ハリキリムードのわたしが、



「おはようございます!!」



と入って行ってもいいんだけど、

できるだけ邪魔をしないように、呑気な声で、



「あ、〇〇くんだ・・・。おはよう〜」



と入ります。







3年生のとき、ずっと不登校だった〇〇くんが、学校へ来ています。



その〇〇くんが、しーずかに、ゆーくりと、



ランドセルから、いろいろと出しているのをみていると、



こういう声に、なっちゃうんだよね。









ハキハキと、いつでもNHKのうたのお姉さんみたいな声を出す気にはなれない。





のーんびりと、たんぽぽのわた毛を吹いているような子がいたら、



いっしょのテンポで、



こっちも、ゆーっくりと、



おっとりと、



したくなる。







たんぽぽ

[]コシの無い子

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タモリが昔、ラジオの中で



「やる気があるものは去れ」



と言ったってネ。



なんか、わかるわ。



だって、ただやる気があるのって、不健康だもの。









そのやる気、大丈夫?



やる気があるって、なにをやるの?



やる気がありますって、なにをするつもり?



なんのために?



それ、やれなかったら、どうなるの?



そのやる気、なくなったらどうなるの?







「笑っていいともは、スタッフにやる気があったら続かなかった」




だって。



タモリ



「すぐに終了すると思ってた」



といいながら、ずっと続いたのは、「やる気」がなかったから?





タモリは、NHKブラタモリという番組の、讃岐うどんを放送する回の中で、こうも言った。



「コシがあるのは、ダメだねえ。人間も同じ。コシがあって、しっかりしているのは、だめ。コシがなくって、ふにゃッとしていないと」







コシのない子に育てる。



コシのない子は、しっかりしてない。

世間の価値観が、分からない。



その分、世の流行や世間体、損得や効率、

見た目や評判に左右されないから、飽きない。



飽きないから、ずーっとやっていても平気。

マンネリズムに強い。



その一方で、コシがないから、途中でやめても平気。

やめたら、次は、となる。

プライド無いから、すぐリセットできる。

リセット力に優れる。

リセットできるから、いつでもスタンバイOK、という雰囲気。



コシのない子は、居場所を限定しないで、ふらふらするから、

新しいものに遭遇する可能性の高い子。

そして、世間の評価と無縁だから、自分で「面白い!」を決められる。

コシの無い子は、まだ誰にも評価されていない世界にも、優しい目を向けられる。



つまり、

まだ、形の無い世界を、創造できる子。





今ある職業に、やる気をみせてる子もいいけど、

今はまだ無い職業を、創造できる子も、素敵でしょう?



コシのない子にこそ、その可能性があると思うなあ。





今、コシのある子も、みんなちょっとしたコツで、

コシのない子になれる。



コシのない子の、フラのある仕草をみるのは、人生の楽しみ。



写真↓は、福岡の「腰抜けうどん」。コシがないことを売りにしている。

腰抜けうどん

[]将来の夢と目標について

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目標を本当に立てられるくらい、しっかりしてる人は、



「目標とは、達成するのが目的ではない」ということが、



きちんと分かってる人のことだと思う。





達成できたら、素晴らしい。

大喜びすると、もっと気分がいい。

人生の中の、とっておきの楽しみだ。

しかし、達成するのが目的ではない。





学校で、読書目標というものが、決められている。



一人、何冊!

クラスで何冊!

達成しよう!

・・・と、呼びかけられる。





そこで、ある子は、



1年生用の絵本を30秒くらいでナナメ読みして、



「はいっ!!読んだ!!マルしよっ!!」



と、チェック表にマルしてた。





まあ、確かに本を読んだのは事実だけどナ・・・。





読書目標って、何だろう。







そもそも、目標って、何だ・・・。







これと同じ「匂い」のするのが、



将来の夢、というやつ。



夢は、「達成する」のが、目的ではない。







満たされない、という思いを、



「目標」にすがることで、満たそうとしていないか。



それが、明確でないとネ。



image

[]テントウムシで学ぶ

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てんとう虫って、知ってる?



というと、なーんだ、そんなのみんな知ってるよ、と言う。



では、漢字で書いてごらん。



えーっ!!



「なーんだ、知らないじゃないの」







その後、



Yくんが、懸命に言った言葉が、衝撃でしたネ。





どんな虫か、見たことはあるけど、

どんな虫なのか、というのは、知らないよ。





知ってる、とか、知らない、とか、

難しいねえ〜。

知ってるけど、知らない、というのです。







じゃあ、班のみんなで予想を決めて、書いてください。



わたしは黒板に、9つの枠を書く。



クラス全員で9班。



それぞれ、自分の班の意見を書きにくる。

4人の意見を一致させないといけないので、喧々囂々とやっているが、



「あと1分です」



というと、何とか仲間うちで折り合いをつけ、案を一つに決めてくる。





1) 点灯虫

2) 点頭虫

3) 点登虫

4) 点十虫

・・・






各班、それぞれ『点』という字を使っている。



ここで、わたしは朝捕まえておいたテントウムシを、かごから取り出す。



「あ、テントウムシ!」



いいですか。



この虫の、動きをよく見ていてください。



わたしはテントウムシを指にのせて、それから割り箸をのぼらせた。



てんとう虫は、勢いよく、わりばしをのぼっていく。



一番てっぺんにきたところで、わたしはわざと、わりばしをひっくり返す。



てんとう虫は、今度は一番下になったわけだが、負けじと向きをかえて、



ふたたび、わりばしを登りだす。





わかった!!!!



先生、わかった、わかった、ハイハイ・・・



子どもたちが、ほとんど全員、言いたいらしく、挙手してこちらを見ている。



教師は、こういうとき、心臓が止まりそうになります。



子どもの目の力、視線の力って、すごいですからね。







「では、やっぱりこうだ、と思う意見に、書き直してよいことにします」





言い終わるやいなや、子どもたちが前へ出て来て、

すごい勢いで、漢字を直し始める。



1) 点登虫

2) 点登虫

3) 点登虫

4) 点登虫

・・・




みんな、さっきの予想を消して、点登虫、と書き直した。





全員座って、わたしに、さもこう言いたげな様子。



どう?わたしたち、全員、合っているでしょう!



ニコニコ。









わたしはにやり、と笑って、







という字に、



×



をつける。



えーーーーーッ!!!







悲鳴ですな。



絶叫、と言ってもいい。





「もう一度、字を直してもいいです」





すると、またもや班の4人で、喧々諤々、あれやこれや、と言い合っていたが、



一つの班が、



「天登虫」



と書いた。





みんな、それを見て、



おおおう!!!!





という雰囲気。



あっという間に、黒板が、



天登虫





でうめつくされる。







そこまで言ってから初めて、





では、正解を書きますよ。



天道虫





黒板に書かれると、なんだ、それかー・・・、ため息がもれる。





ほら、おてんとうさまって、言うでしょう?



うんうん。



この虫はネ、いつもおてんとうさまの方へ、行こう、行こう、としているようだから、



昔の人が、「天道虫」って、つけたみたいだね。





次の時間、みんなで見つけに行くぞ、と言うと、



さっきまで、暗い顔をして、



「うち、虫きらあい・・・」



とつぶやいていた女の子たちも、



やったーっ!!



となりますが・・・



女の子、気分がころころ変わりすぎッ!!

人間の心って、不思議〜ッ!!


天道虫