[]袖擦り合うも他生の縁

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休日に、息子とバスケットボールをしようと、近くの公園に行った。



すると、近くの介護施設からだろう、車イスの老人たちが先に来ていて、どうやら花見らしい。



公園の隅に八重桜の大木があり、今が満開だ。

ピンク色の花びらが、ピーカンの青空に向かって盛んに咲いている。



公園のグランドでバスケをやっていると、ギターに合わせて歌声が聞こえてきた。



うさぎおいし、かのやま (ふるさと)



春のうららの 隅田川 (花)



はるのおがわはさらさらゆくよ (春の小川)



はるがきた はるがきた どこにきた (春がきた)






春の野で、ギターに合わせて歌を歌う。

みなさん、気持ちよさげで、頬がほころんでいる。





ギターのお兄さんは、施設の職員の方だろう。

けっこういい声で、リードしながら、なんだか場をうまく盛り上げている。

おじいちゃん、おばあちゃんたちも、ほほほ、と時折、笑い声があり、こころが開放されているようだ。





こっちはバスケをしながら、いい天気だし、桜は見事だし、ずいぶん楽しんだ。



どうやら介護施設の会合は終わったらしく、片付けに入った。

職員がアルミの机を畳んだり、車に積み込んだりしている間、待っている車椅子の何人かのおじいちゃんが、こっちをずっと見ていて、



「バスケットボールをやっとるな」



とか話をしている。



息子がシュートを決めると、



「おお、入ったわ。うまいな」



とか言ってる。





わたしは、その中で、かくべつに大きな声を出している一人のおじいちゃんに、興味を持つ。



バスケットが好きだったのかしらん。

それとも、ちょうど、うちの子くらいの、お孫さんがいるのかしら。

久しぶりにお花見に出て来て、気分がよくなったのかな。

うちらに話しかけたくなったのかな。

それとも、いっしょに来ていた養護老人ホームのお友だちに向けて、話題を提供したかったのか。





「ありがとうございます。なかなかうまくなったんですよ。5年生です。お孫さんがいますか?おじいさん、バスケがお好きなんですか?若い頃、選手だったとか?この近くの施設なんですか?」



そんなふうに、こっちも応えたかったが、微妙な距離があって、遠慮してしまった。



片付けが終わると、次々と車にのって、みなさん出発していかれた。







介護施設の車が去ると、息子が言った。



「なんか、ぼくたちのこと、しゃべっていたね」



息子も、やはり、声の一番大きかった、あのおじいちゃんが気になったらしい。



「返事しようかと思ったんだけど、あそこまで遠かったからなー」







人生旅行の妙味。

「袖擦り合うも他生の縁」、というのだろうか。





なんだか、家に帰って来てからも、あのおじいちゃんの人生話を、聞きたくなっている。





春のあぜ道