[]歴史授業「焼き場に立つ少年」の写真から

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歴史の授業が、いよいよ佳境に。

太平洋戦争であります。



授業の最初に、この写真を見せました。

しーん。



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日本とアメリカや中国が戦争をしました。

この写真は、その戦争が終わったすぐ後に、長崎で撮影されました。



撮ったのは、アメリカ軍のカメラマンであるオダネルという人です。



この写真に、なにが見えますか?



「男の子」

「男の子が、小さな赤ちゃんをおぶっている」




まだ、なにか分かることや気づいたことはありますか。



「男の子の足は、はだしです」

「背中の赤ちゃんは、寝てる」




なんではだしなんでしょう。



「戦争で、なくなってしまった」

「どこかにいってしまった」

「急いで逃げてきたのかもしれない」




読み取った情報や、自分がそこから考えていけること、類推すること、背景として想像できることなどを、ノートに書かせた。



時間を十分にとったあと、ノートに書かせたものを元に、意見をだしあう。



おうちの人はどうしたのだろう



「お母さんも、長崎だから原子爆弾で被害を受けて亡くなったのかもしれない」

原子爆弾じゃなくても、戦争中だから、死ぬことがあったかも」




長崎にも、外国人が攻めてきた、ということ?



元寇のときは、外国人が上陸したけど、長崎にも上陸したのかも。」

「空襲があったのだと思う」




空襲ってなに?



「飛行機から、爆弾がたくさん落とされた」





日本の各地で、どれほどの空襲があったのか、資料集をみて、そこから情報を読み取る。

日本中、あちこちで空襲があり、大きな都市はほとんどが空襲を受けて被害をうけたことがわかる。



「長崎は原爆だけでなく、何度も空襲があった」

「きっと、この子は、アメリカや中国を憎んでいると思う。だから、兵隊になりたかったのかもしれない」

「だから姿勢がいいのかも」




子どもたちは、あれこれと自分自身におきかえながら、この子の心の内にまで想像をふくらませていく。



「歯を食いしばって、立っているようだから、きっとなにかとても我慢をしていると思う」

「お母さんが亡くなったから、我慢をしているのだろうと思う」

「背中の赤ちゃんが元気がないのは、食糧が不足していたのだと思う」

「栄養不足だったのだろう」

「たぶん、お母さんもいなくて、自分が赤ちゃんの世話をしないといけないということは、二人兄弟か」

「お父さんもお母さんもいないということは、学校には行けていないと思う」






あれこれと討論が終わって、この子をとりまく状況が分かってきたような感じのところで、



「この写真につけられたタイトルを教えます」



といって、

「焼き場に立つ少年」


と黒板に書いた。



しばらく、しーん。







背中の赤ちゃんは、もう亡くなっていたそうです。この子は、この赤ちゃんを火葬してもらうために、順番を待っていたのです。これを撮影したカメラマンが、この写真について書いています。この少年は、ずっと順番を待つ間、まっすぐに前を向いて、気を付けの姿勢をくずさなかったそうです

当時は、軍国教育でした。

どんな教育だったのでしょう。なぜ、ずっと気を付けをしていたのでしょうか。



「死んだ人が前にたくさんいるから、気を付けをしていたと思う」

「まわりに兵隊さんがたくさんいて、気を付けをしていたから、大人と同じように気を付けをしたのでは」




この赤ちゃんはなぜなくなったのでしょう。食糧が不足していたというけど、なぜそうなってしまったのでしょう。



「戦争で戦っている兵隊さんのために食糧を出していた」

「食べるものはほとんどが、軍隊のためにもっていかれたのでは」

「戦争で空襲があって、つくっているひまがなかったと思う」






用意していた、いちばん大事な発問をした。

少年はなにを見ているのでしょう。


「死んだ人の山を見ていると思う」

「焼けた自分の街をながめているのだと思う」

「なにも見ていない」




なにも見ていない、といった子に、どういうこと?



と尋ねると、



「たぶん、気を付けをしなきゃと思って立っているけど、立っているだけでやっとなんだと思う。だから、そのまま、もう何も心には入っていないと思う。目はあいているけど、なにも見えていないんだと思う」







最後に、この写真を撮ったカメラマンの手紙を読んだ。



長崎では、まだ次から次へと死体を運ぶ荷車が焼き場に向かっていた。死体が荷車に無造作に放り上げられ、側面から腕や足がだらりとぶら下がっている光景に、わたしはたびたびぶつかった。人々の表情は暗い。



焼き場となっている川岸には、浅い穴だけが掘られている。水がひたひたと押し寄せていた。灰や木片、石灰が散らばっている。燃え残りの木片が、風をうけると赤く輝いて、熱を感じる。白いマスクをつけた係員がもくもくと、荷車の先から、うでや足の先をつかんで、引きずりおろす。そして、そのままの勢いで、火の中に放り込んだ。死体ははげしく炎をあげて、燃え尽きる。

(中略)



焼き場に、10歳くらいの少年がやってきた。小さな体はやせていて、ぼろを着ていた。足は、はだしだった。少年の背中に、2歳にもならないような幼い子がくくりつけられていた。その子は眠っているようだった。体にも、まったく傷がなく、やけどのあとらしいものも、みえなかった。



少年は焼き場のふちに進み、そこで直立不動になった。

わきあがる熱風を感じていたのだろうが、動じず、そのまま動かず立っているままであった。

係員がようやく、その幼子を背中からおろし、足元の燃えさかる火の上に、のせた。



炎が勢いをまし、おさな子の体を燃やし始めた。立ち尽くす少年は、そのままの姿勢で立ち続け、その顔は炎によって赤く染まった。気落ちしたように少年の肩がまるくなり、背が低くなったようだった。しかしまた、すぐに背筋をのばして、まっすぐになった。わたしはずっと、この少年から目をそらすことができなくなっていた。



少年は、まっすぐを見続けた。足元の弟に、目をやることなく。ただひたすらに、まっすぐ前を。

軍人にも、これほどの姿勢を要求することはできまい。



わたしはカメラのファインダー越しに、涙ももう枯れ果てた、深い悲しみに打ちひしがれた顔を見守っていた。わたしは思わず、彼の肩を抱いてやりたくなった。しかし、声をかけることができず、そのままもう一度だけ、シャッターを切った。



すると少年は急に向きをかえ、回れ右をすると、背筋をぴんとはり、まっすぐ前をみて歩み去った。あくまでも、まっすぐ。一度もふりかえることなく。


〇この子はこのあと、どこへ行くだろうか。

〇大人になって、何をしているだろう。



最後に、感想を書かせた。