[]小学校のおもしろ歳時記

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「もう、こんな季節になったか・・・」



と、独り言を思わずつぶやきたくなる瞬間って、誰にもあることだろうと思います。



今日、そんな、 季節の移り変わり を実感するようなことがありました。



職員室に、一本の電話がかかってきたのです。



「すみません、おたくの小学校の子が、用水路の栓を勝手に開けちゃって・・・」





帰り道。



田んぼに水を引き入れるために、用水路の水量調節をしている栓を、勝手にいじってしまう子がいるのだ。

そのせいで田んぼに水が入っていかず、時間になっても予定していた水量にとどかないとのこと。



「田んぼの持ち主どうしで、お互いに予定もあるんでねえ。こっちは大変な迷惑ですよ」



教頭が、必死になって頭を下げている。



「今から、現場を見に行きまして、明日にもさっそく、全校の子どもたちに指導を徹底いたしますので・・・」



電話に向かって、90度に腰を折り曲げて、謝罪している。



話しが終わり、教頭が受話器を置くのを見て、わたしの隣に座っていた年配の先生が、



「あー・・・」



と、あったかいお茶を飲み干した時のようなため息をついた。



そして、



「いやあ、もうすぐ、5月なんだねえ。毎年のことだけど」



わたしがきょとんとしていると、



「いや、こんな電話がかかってきてサ・・・」



先輩は、教頭をチラりと見、



その後、深いため息をついて、目を閉じると、



「子どもが用水路の栓を開ける、電話がかかってくる、そして教頭があやまる・・・これでやっと、5月が来るなあ〜ってね。実感するんだよネ・・・」



先輩は、ほおづえ姿で、心から柔らかい笑みをうかべて、そう語ったのであります。









そういえば、と私は思い出した。



同じように、ある季節を実感できる出来事が、ある。



冬。



ああ、いよいよ冬だよなあ、厳しくなるぞ、と思う頃。



この時期の話題は、学校のビオトープ池に、2年生が落ちた、というやつでして・・・



霜が降り、空気が凍てはじめる頃、2年生の先生は、



「さあ、今年の第一号は誰かねえ」



と、心の中で、予想をする。

自分のクラスだと、大変だな、とチラッと思う。



同時に、



「落ちた連絡⇒バスタオルもって駆け付ける⇒引きあげ⇒保健室⇒ストーブで暖める⇒替えのズボンとパンツ⇒保護者の連絡帳にパンツ洗濯依頼⇒説教」




という、一連の流れをシミュレーションするのでありますね。





しんしんと冷えた朝、



「せんせー、氷が割れて、〇〇くんが落ちたよっ!」



職員室に、こんな子どもの声が響くと、



「ああ、本格的に、冬になってきたなあ」



としみじみ、思うのです。



(そろそろスキー板、出しておかなきゃな)







わたしは、遠方に見える山の雪がとけてきて、ずいぶんと色が黒く見えてくると、ああ、冬はもう過ぎたのだなあ、ということを実感します。



目の前の桜が散りはじめ、道路に桜の花びらが重なり落ちているのを見ると、次にやってくる、さわやかな新緑の季節を感じます。



職員室では、今の時期、用水路へのいたずら旬な話題というわけで・・・・また、世間とはちがった歳時記が語られている、ということであります。





春の用水路