[]「損をしているような気分になる」(6歳)

「なにか分からないけれど、いつも、損をしているような気分になる」。



まあ、これがたった6歳、1年生の口から飛び出してくるとは思わなかった。



事の起こりは、「ずる事件」。





「○○ちゃん、ずるい!」



ほら、よく居るでしょう。

なにかあるたびに、自分は被害者になっていて、他の子の行動を、とがめようとする子。

1年生の教室には、この、



「あっ!ずるい!」



という言葉が、ある程度、日常的に、現役で未だ、生きていまして・・・。



大人はあんまり、大声で、他の人にむかって、



「あーっ!ずるい!!」



なーんて言わないから、それを聞くと、ちょっとドキッとしますね。



(言わないだけでシッカリ思っているだけかもしれないが)







まあ、そんな子はたくさんいました。



私は、「ずるい!」というのが面白いなあ、と思って。

たびたび、そのことを取り上げて、クラスで話し合ってきたわけ。



すると、それほど、いなくなってきたんです。そう言う子が。

まあ、ふつう、そういう言い方は減ってくるもんですよ。

クラスの仲が良くなってくれば。



しかしまた、ついこの間、そんな発言があったので、





「ずるいってなんだ?」





という話を、またクラスで話し合った。





こういう話し合いができるのが、1年生のいいところだね。

(高学年になると、勉強も行事も忙しすぎて、やれなくなってくる。)





今日は、折り紙で、ずるい、が出た。



Kちゃんが、休み時間、わたしから折り紙をもらって、なにか作ろうとしていた。



折り紙は、晴れの日は、使わない約束になっていた。

でも、今日は雨上がり。

地面がぬかるんでいて、グランドではとうてい遊べそうにない。

それで、休み時間、折り紙を許可した。



すると、わたしが折り紙を並べ始めたのを見て、すぐにKちゃんがやってきた。



「先生、もらっていい?」



と、数枚を選び出した。



中に、ど派手なピンク色が混じっており、それが好きなKちゃんは、うれしくって、るんるんという感じで、手にとって選び始めていたと思って下さい。



すると、トイレから戻ってきた、Rちゃんが、突如、大声を出す。



「あっ〜!!Kちゃん、ずるい!!!!」







不安になって私の顔を見上げる、Kちゃん。



わたしは、「いいよ、それをとりなよ」  という感じで、Kちゃんに、



「Kちゃん、それがいいんだね〜」



なーんて、言っているものだから、



Rちゃんが小走りに来まして、



「Kちゃん、ずるい!!」



と、ともかくRちゃんの行動を咎めて、やめさせようとする。



わたしは、おきまりの文句で、



「Rちゃんはどうしたいの?」





と聞きますと、



「私も欲しい!」



と言います。



「あ、欲しいんだね。じゃあ、ずるい!じゃなくて、私はこの色がほしい!っていうことだよね」



「(こくん、とうなずいて)Kちゃんだけ、ずるい」




あ、ちょっと声のトーンが落ちてきました。



つまり、自分の主張がどうやら聞き入れられそうだ、というので、周囲に自分の興奮状態を見せる必要もない、と判断したのでしょう。



「もう一回、いい? Kちゃんはずるいの?」



「うん。ずるい」



「Rちゃんは、どの色がほしいの?」



「わたしね、これとふつうのピンクと、水色」




このとき、Rちゃんは、すでに色を選び出していて、自分の欲しい色を指でさがし、見つけていました。



「あ、そうなのね。Rちゃんはそれがいいの。見つかってよかった。」



「先生、これもらっていい?」



「いいよ!・・・ねえ、もう一回聞くけど」






Rちゃんの興奮状態はもう完全に冷めていて、周囲で聞いていて驚いていたみんなも、



(あ、たいしたことないみたい)



となって、それぞれ自分のことを再びやり始めようとする雰囲気。





「Rちゃん、Kちゃんって、ずるいの?」



「え?」



「Kちゃんって、ずるい?」



「??うん。最初にとったから、ずるい



「最初にとったら、ずるいってこと?」



「うん。」



「じゃ、Rちゃんが最初にとったら、Rちゃんがずるいってこと?」



「??うーん。ずるくない」



「Rちゃんはずるくないの?」



「みんながいいよっていえば、ずるくない」



「みんなって、クラスのみんな?」



「うん」



「みんなに聞けないときもあるよね。トイレとか、そこにいないときとか・・・。そういうときはどうするの?それでも、クラス全員に聞く?」



「・・・??うーん」



「Rちゃんは、Kちゃんがずるいって思っているけど、なんでずるい、と思うの?」



「・・・??」






ここからは、休み時間のあとの、クラス会議。









冷静なUくんが、



「Rちゃんは、よく、ずるいって言うなあ」



という。



すると、クラスのほとんどの子が、



「うん。よく言う。」



と、同意します。



すると、渦中のRちゃん、



「だって、みんな、ずるいんだもん」



と、口をとがらせて、まことにスムーズに言います。



さも、当然、という感じで。



だって、仕方ないじゃん、みんながずるいんだから、という感じでしょうか。







すると、クラスの子たち、なんだか世界の違いを感じ始めて、ちょっと黙り気味になり・・・。



教室の中には、しばらく、しーずかな、加湿器のコポコポ、シュー・・・という音が響く。







しばらくして、



「・・・べつにみんな、ずるくないと思う。・・・ずるしようと思って、やってないし」



Uくんは、明るく冷静で、的確なことを言うので、一目置かれている人です。



Uくんが口火を切ったのをきっかけに、本日の折り紙事件で、Rちゃんにお咎めを受けたKちゃんも、



「そうだよ。わたし、べつにずるしようと思ってないよ。ふつうに、折り紙選んでただけだもん」





わたしがかき混ぜて、





「ずるってなんだ?」





というと、1年生の頭の中身は、おもしろいほどに混線してきて、



「急に、なにかを、やることなんじゃない?」



「急にって、どういうこと?」



「たとえば、急に横入りするのは、ずるい」



「ゆっくり、横入りするのは?」



「ゆっくりだったら、いい」




「いいの?」



「ゆっくりだったら、入ってくるのが分かるじゃん」



「??」



「うしろに並んで!って言えばいい」



「それで、後ろに並んでくれたら、ずるくないの?」



「うん。それならずるくない」



「じゃ、横入りがずるいんじゃなくて、ここ、いい?って聞かないのが、ずるいってこと?」



「そう。聞けばいい。」



「Kちゃんは、トイレに行ってるRちゃんに、折り紙もらっていいかどうか、聞きに行けば良かったのか?」



「・・・ちがう・・・とおもう・・・」




脳内(シナプスが混線しています。





(・・・おもろい・・・。)



わたしは、心の底で、この訳の分からなさ、最高だなあ、と思って、腕組みをしております。







いろいろと混線したままで、結論は出なかったのですが、



事件のきっかけとなった、Rちゃんが、Kちゃんに「ずるい」と言った場面のことから、



「わたしって、よく、ずるいって言うんだよね」



と、Rちゃんが認めたところから、さらに、この話し合いのおもしろさにブーストがかかり、









「なんで、すぐに、ずるいって言いたくなるんだろう」









という話の展開から、冒頭の、





「なにか分からないけれど、損をしているような気分になるから」



という言葉が、出てきたのです。







日常生活に、なぜだか、損をしているような気のする1年生。





少なくとも、1年生に、



「損(そん)」



という言葉と、



「ずる」



という言葉を、教えた張本人がどこかにいるな・・・






ずるいぞ