おれのが強いぞ

「おれんがつよーぃぞ」



これは、すこし訛りも入っている。



少していねいに書くと、こうなる。



「おれの方が、お前よりも強いんだぞ」







みんなで、ランドセルにしこたま、勉強道具や箸やらハンカチやら、詰め込んでいる。



1年生は、帰宅時間になると、全員で、その作業に没頭しなければならんのです。



十数人が、教室のうしろの方で、あれやこれや、とやっているうちに、



すぐに手を出すTくんが、Mくんの顔の前で、指を突き出す真似をした。



Mくんは、いやなことがあるとすぐに、



「うぇーん」



と言ってしまう。







どうやらそれが、かえって、Tくんの気持ちを駆り立てるらしく、聞くところによると、TくんはMくんに、この行為を最近何度も繰り返していたらしい。



その際に、Tくんが、Mくんに向かって言うのが、





「どう、おれんーがつよい」





という言葉でありました。



そして、このセリフを言うときの、Tくんの表情は、





「どや!」



という感じ。



「勝ったぞ!強いんだゾ!」







ところが、その後、Mくんが目の前を、自分を避けるようにして去ると、Tくんは、



何かに耐えるような、がっちりと冷たい表情になって、口を、きりっと結ぶのだ。



こんなとき、Tくんの顔は、目の光が急に奥の方へひっこんで、「しん」としてしまう。





Tくんを抱きかかえて