[]給食に命をかける女子

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クラスには個性があふれている。



一人の女子。

2時間目の休み時間になると、だれもがみんな、その子に声をかける。



「ねえねえ、Aちゃん、・・・」

「Aちゃん、わたしにも・・・」






男子までが声をかける。



「なあ、A、たのむよ・・・」

「Aが言ってたの聞いた?」

「ほんと?Aさん・・・」






かように、Aさんは、このクラスでの重要人物である。

なぜ、Aさんはこのような地位を築くことができたか。









答えは、給食であります。



Aさんは、ぜったいに毎朝、その日のメニューを覚えてくる。



で、特殊能力のようだが、その覚えたメニューを、空んじることができた。



「Aちゃん、今日のメニューなに?」

「今日は〜、ひなまつり給食だから、ちらしずしでしょ、それから、さけのしおやき、なのはなびたしに、すましじるー、それから、三色ぜりー。たぶん。そんな感じ」








それをあてにして、多くの仲間がAさんに、給食のメニューを尋ねるのです。



Aさんも、はじめはそうでもなかったろうが、だんだんと自分がクラスの仲間からあてにされていることを知り、丁寧に伝えるように変化しているようでした。







ある日、男子のGくんにメニューをしゃべっていたAさんでありましたが、Gくんから



「いそべあげ?なにそれ?肉?」



と訊かれておりました。



私はその場面に遭遇し、どんなやりとりになるか、興味津々で聞いていた。





スポーツ少年のGくん。

彼は、いそべあげを知らない風であった。



「磯部揚げって、ちくわとかを揚げてあるやつ。ちょっと海苔がついてる感じの。知らないのー?」



Aさんは、男子がちっとも分からない様子なので、あれこれと説明をしている。



Aさんはどんな女の子か。



Aさんは、家で、かなり料理を手伝っているらしい。

日記を見ていると、その様子が分かる。

小麦粉をボウルに入れる時に、バフッとなってキッチンに粉が舞ってしまうことを、日記に書いていた。











ところで普段、Aさんは、わりと少食でありました。

おかずの一部を隣の男子にあげることもあったようで・・・。





ある日、男子が調子よく、



「Aちゃん、ゼリーくれない?」



と頼んだところ、鬼の形相で



「いつもおかずをあげてるでしょ!」



と、怒鳴り返し、目をまるくしている男子に向かって、



「今日は恩返ししてよネ!!」



と、男子からゼリーを取り上げていた。



男子 「A、こえぇー(震え声)」







次の日、



「わたし、ゼリーは大好きなんで♡」



と、日記に書いてありました。





ゼリー