[]クリスマスが近づくと教室で巻き起こるサンタ議論

クラスの子が、



「サンタさんが煙突に入れないかもしれない」




というので、心配していた。







あんなふとっちょな人だから、煙突に入れないと思う。







クラス会議になった。



意見は、いくつかに分かれた。



「お母さんが言うには、昔は煙突がどの家にもあったので、煙突を使った。今では煙突は使われていない。現代ではどの家にも駐車場があるため、トナカイとそりを駐車場に停めて、窓から入るのだと思う」



いつもは日直のスピーチもまともに言えないような子が、がんばってこれだけの意見を言う。



「えっと、えっとね」



を多用するから、よく分からない言い回しになっているが、クラスの仲間は全員、それをなんとか聞き取ろうとする。



「窓はカギが締まっているから入れないと思う。今の意見は、ちがうと思う」



と背の一番小さな女の子が言うと、



「いや、たしか、僕の家では、サンタさんが入ってこられるように、ママが一つだけは開けているはずだ」



と、クラスの中では賢いとされている男子が口をはさむ。



一旦、それぞれ、隣近所の子で自発的な対話が始まっていく。





そのうちに、合点したように、大きな声で意見を言うものが現れる。





「サンタは妖精の一種だから、窓やサッシの鍵は、関係がない」



つまり、そこを通れるってこと?



「そう」







賛否の声が、幾重にもかさなりあって、教室にこだましていく。



わたしは、それをずっと聞いている。









一人の女子が、



「先生、ちょっと、チョーク使っていいですか」



と、断りを入れてから、



「えっと」



と黒板の前に出てきて、持論を展開した。





「わたしが見たのは、トナカイがおうちの上のところで止まっていて、サンタだけ屋根の上から降りようとしてた」



彼女は、こっちにトナカイで、こっちにサンタ、これが家で、まど・・・と、くわしく絵を描く。



オーッ、とため息が出る。

なぜとなく、説得力を感じる言い方だったからだ。



「Hちゃん、すごーい」



おまけに、先生のように黒板を使って説明をするなんて、なんだかとてもカッコよく見える。





「屋根から降りて、それで、窓から入る」




そうかー・・・。



おそらく、そうなんだろう、という空気が、教室を包み込んでいく。





「はい」



手をあげる者がいる。



見ると、足し算のさくらんぼ計算が得意なEくんだ。



「それって、絵本?」



それはどこで見たのか、という、するどい追及なわけ。(将来は弁護士か工学博士に向いてるナ)





Hちゃんは、手についたチョークをパンパンとはたきながら、



「ケーキ屋さんの入り口に、そういう絵が貼ってあった」



ケーキ屋さんは、なんだかクリスマスのことに詳しそうだから、おそらく、それが正しいのだろう、ということになる。なぜか理由ははっきりしないけど、ケーキ屋さんはクリスマスになると、サンタのことを多く扱うようになるから、ケーキ屋の中にはたぶん、よほどサンタに詳しい人がいるのだろう、という意見が出た。







すると、それまで黙っていた、ADHDの診断を持つTくんが、





「おれにも書かせて」




と黒板の前に出てきて、言った。



さっき、Hちゃんがやったように、<黒板を使ったプレゼン>がやってみたかったようである。





「Tくん、サンタさんのことだよ」



↑これは、日頃からTくんに尊敬の念を持ちつつ、お世話を焼いているUくんのセリフ。

思わずTくんが何するのか心配になって、先にこういうことを言ってしまうのが、Uくんの個性であります。





Tくんは、仲良しのUくんの方を見て、



「知ってる」



と難しい顔を固持したまま、言い放つ。





そして、みんなに説明をする。



「えっと、サンタさんは、家の煙突からくるんだけど、小さくて入れないから、太っちょだからね。」



Tくんは、家とサンタを書く。



サンタは、かなり太っている。





みんな、Tくんの説明をしーんとして、聞く。





「で、サンタさんは、この服の中に、こんくらい(激ヤセのサンタを描いて)の細い感じなんだよね」




みんな、あまりのことに、声も出ないで、Tくんの絵を凝視し、固まってしまう。





「煙突に入るときは、本当のサンタになるから、こんなくらい。で、みんなには、太っちょに見せてるから、仕事が終わって煙突から出てきたら痩せてて、それからすぐにこっちにもどる」




つまり、モビルスーツのような太っちょの着ぐるみを着て、ふだん周囲には、その姿を見せているのだそう。



「本当は、こんくらいね」




本物のサンタは、激ヤセなのだ、という意見。







サンタ側に何らかの理由があって、そのような太っちょの姿を、世間には提示して見せているだということである。さすればあれは、サンタの<世を忍ぶ仮の姿>、ということになる。



電通博報堂など、世に流布されているサンタのイメージ作戦に惑わされているから、本物の姿を見失っているのが現代の子どもたちだ、ということなのだろうか。



Tくんのサンタ・レポートは、「サンタには真の姿がある」という、衝撃的なものであった。





ここで、



「あ、そうか〜、それだったら、説明がつくね」



と言ってくれるUくん。本当にTくんのことが好きなのだ。







さて、しかし、女子の一部には腑に落ちない者が居るようで、



「なんで、わざわざ、太っちょに見せるわけ?」



と、首をかしげている。



たしかに、考えてみると、その必然性が、分からない。



みんな、不安げに



「そういや、よく分からないよね」



ざわざわ・・・。



かっこよく決まった、と思ったのに、そうならなかったTくん。

表情が固くなったまま、なんでみんな分からないんだ、と不満げであります。



そんなTくんを、Uくんも心配そうに見守っている。



みんなは顔を見合わせて、なんで、なんで?と騒ぎ始めています。







不満そうに口をとがらせる、Tくん。





ついに口を開き、大声で、











「だって、ガリガリだと、寒いじゃん」







あーっ、・・・・なーる・・・・




全員、納得したのでありました。





サンタの真の姿